2012年に気になった脆弱性をまとめてみる

2013年あけましておめでとうございます(遅い...)。今年も思い立ったときにブログ記事を投稿していきたいと思います。
2012年も変わらず脆弱性情報を読んでいたこともあり、2012年に気になった脆弱性をまとめてみます。2011年も同じような日記を書きましたが、リンク集に近いものだったため、今回は気になった点のコメントを添えました。そうしないと書いた本人も忘れるので...

はじめに

対象とする脆弱性

この日記で取り上げる脆弱性は、「2012年に修正、または発見、報告(記事化も含む)されたもの」です。自分のつぶやきを基に選んだので、2012年の脆弱性を網羅していません。

脆弱性の分類

今回の日記では、脆弱性を次のように分類して表にまとめました。

表の構成

各表は次の列を基本に構成しています。表ごとの独自の列については、その節で改めて書きます。

  • [ソフトウェア名] 列
    • 脆弱性が存在するソフトウェアなどを指します。表によって、列名が少しずつ変わります。
  • [月] 列
    • その脆弱性が修正、または発見、報告(記事化も含む)された月を指します。
  • [CVE番号] 列
    • その脆弱性のCVE番号を指します。CVEで検索して見つからなかった場合は「CVE番号なし」としました。
  • [関連情報] 列
    • その脆弱性に関連するインターネット上の情報を指します。

以上をふまえて、2012年における脆弱性の振り返りの参考にしていただければと思います。

ソフトウェア

2012年のソフトウェアに関する気になった脆弱性を下表にまとめました。定例パッチを提供している Microsoft, Adobe Systems, Oracle のソフトウェアについては、別の表にまとめました。
この分類においては、その脆弱性が悪用されているか否かにも注目して、表に [脆弱性の悪用] 列を加えました。

  • 「○」:脆弱性の悪用(攻撃)が確認されている。
    • 脆弱性の悪用から発覚したものについては「○0day」とした
  • 「-」:脆弱性の悪用が確認されていない。
ソフトウェア名 CVE番号 脆弱性の悪用 関連情報
Linux kernel 1月 CVE-2012-0056 ブログ「Nerdling Sapple」
sudo 1月 CVE-2012-0809 - Sudo公式
Samba 4月 CVE-2012-1182 - Samba公式
PHP 5月 CVE-2012-1823 ブログ「徳丸浩の日記」
BIND 6月 CVE-2012-1667 - Internet Systems Consortium
7月 CVE-2012-3817 - Internet Systems Consortium
7月 CVE-2012-3868 - Internet Systems Consortium
9月 CVE-2012-4244 - Internet Systems Consortium
10月 CVE-2012-5166 - Internet Systems Consortium
12月 CVE-2012-5688 - Internet Systems Consortium
Mysql 5月 CVE-2012-2122 - IIJ-SECT
12月 CVE-2012-5611他 - SANS, exploit-db
phpMyAdmin 9月 CVE-2012-5159 SourceForge
Safari 10月 CVE-2012-3713 - JVN, mala氏ブログ記事

それぞれの脆弱性で気になった点を下記に記述します。

定例パッチ関連:Microsoft

毎月定例パッチを提供している Microsoft のソフトウェアのうち、気になった脆弱性を下表にまとめました。

ソフトウェア名 MS番号 CVE番号 脆弱性の悪用 関連情報
1月 Windows Media Player MS12-004 CVE-2012-0003 ISS
1月 Windows Packager MS12-005 CVE-2012-0013 - Exploit Shop,NTTデータ 先端技術
3月 リモートデスクトップ MS12-020 CVE-2012-0002 - IIJ-SECT
4月 Windows コモン コントロール MS12-027 CVE-2012-0158 -
6月 Internet Explorer MS12-037 CVE-2012-1875 IBM東京SOC
7月 VBA MS12-046 CVE-2012-1854 Symantec
7月 Windowsシェル MS12-048 CVE-2012-0175 - IBM
9月 Internet Explorer MS12-063 CVE-2012-4969 ○0day ZATAZ.com
12月 Internet Explorer MS番号なし CVE-2012-4792 ○0day Fireeye

それぞれの脆弱性で気になった点を下記に記述します。[脆弱性の悪用] 列が「○」のものには「脆弱性が悪用されたこと」のみ気になったものがあります。それらの脆弱性についてのコメントはありません。

定例パッチ関連:Adobe Systems

定期的にパッチを提供している Adobe Systems のソフトウェアのうち、気になった脆弱性を下表にまとめました。

ソフトウェア名 Adobe番号 CVE番号 脆弱性の悪用 関連情報
2月 Adobe Flash Player APSB12-03 CVE-2012-0767 -
2月 Adobe Flash Player APSB12-03 CVE-2012-0753 contagio
5月 Adobe Flash Player APSB12-09 CVE-2012-0779 -
5月 Adobe Illustrator APSB12-10 CVE番号複数 - Adobe
5月 Adobe Photoshop APSB12-11 CVE番号複数 - Adobe
5月 Adobe Flash Professional APSB12-12 CVE-2012-0778 - Adobe
12月 Adobe Shockwave Player - CVE-2012-6270 - JVNVU
12月 Adobe Shockwave Player - CVE-2012-6271 - JVNVU
12月 Adobe Shockwave Player - CVE番号なし - JVNVU

それぞれの脆弱性で気になった点を下記に記述します。[脆弱性の悪用] 列が「○」のものについては前述 Microsoft の場合と同様です。

  • Adobe Illustrator: APSB12-10
  • Adobe Photoshop: APSB12-11
  • Adobe Flash Professional: APSB12-12
    • Security Bulletin 公開当初、解決策としてバージョンアップが提示されていた。
    • だが、最終的に修正パッチを提供することとなった(ITmedia関連記事
  • Adobe Shockwave Player: CVE-2012-6270, CVE-2012-6271, CVE番号なし
    • 「旧バージョンの Shockwave ランタイムなどが同梱されている」という珍しい脆弱性

2012 年の Adobe Flash Player における脆弱性情報が「ERIC ROMANG BLOG」でまとめられていました。修正された脆弱性 68 件のうち 44 件(64,7%)が Google による報告なんですね。そういえば、APSB12-16 では、fuzzing によって発見された脆弱性が 12 件修正された話題もありました。

定例パッチ関連:Oracle

定期的にパッチを提供している Oracle のソフトウェアのうち、気になった脆弱性を下表にまとめました。

ソフトウェア名 Oracle CPU CVE番号 脆弱性の悪用 関連情報
2月 Java関連 2012年2月 CVE-2012-0500 この日記
2月 Java関連 2012年2月 CVE-2012-0507 Microsoft
4月 Oracle Database Server SecurityAlert CVE-2012-1675 - ITmedia
6月 Java関連 2012年6月 CVE-2012-1723 NTTデータ先端技術
7月 Oracle Outside In 2012年7月 CVE番号多数 - JVNVU
8月 Java関連 SecurityAlert CVE-2012-4681 ○0day Fireeye,SE-2012-01
10月 Java関連 2012年10月 CVE-2012-5076 NTTデータ 先端技術

それぞれの脆弱性で気になった点を下記に記述します。[脆弱性の悪用] 列が「○」のものについては前述 Microsoft の場合と同様です。Adobe Flash Player 同様、2012 年の Java 関連の脆弱性情報が「ERIC ROMANG BLOG」でまとめられていました。

  • Oracle Database Server: CVE-2012-1675
    • 発見者が修正されたと思い、脆弱性情報を公開
  • Oracle Outside In: CVE番号多数

組み込みシステム

2012年の組み込みシステムに関する気になった脆弱性を下表にまとめました。スマートデバイススマートフォンタブレット)、スマートデバイス向けアプリについては、別の表にまとめています。

製品種別 メーカ/型番 CVE番号 関連情報
IPカメラ Trendnet社/TV-IP110W 1月 CVE番号なし consolecowboys
複数ベンダ 10月 CVE-2012-3002 JVNVU
ルータ TP-Link社/8840T 4月 CVE番号なし JVNVU
Netgear社/FVS318N 4月 CVE番号なし JVNVU
Logitec社/LAN-W300N/Rシリーズ 5月 CVE-2012-1250 JVNVU
Alpha Networks社/ASL-26552 8月 CVE番号なし OSVDB
D-Link社/DSL2730U 12月 CVE-2012-5966 JVNVU
Huawei社/E585 Pocket WiFi 2 12月 CVE-2012-5968他 JVNVU
テレビ Samsung社/D6000 4月 CVE-2012-4329 exploit-db
Samsung社/型番不明 12月 CVE番号なし TheHackerNews
ネットワーク機器 F5 Networks社/BIG-IP 6月 CVE-2012-1493 Matta Consulting
コーヒーメーカー JURA Elektroapparate AG社/IMPRESSA F90 9月 CVE-2008-7173 はてぶ
無線LANチップセット Broadcom社/BCM4325・BCM4329 10月 CVE-2012-2619 Core Security
プリンタ Samsung社/型番不明 11月 CVE-2012-4964 JVNVU
カード式ロック Onity社/型番不明 7月 CVE番号なし eWEEK,WIRED

組み込みシステムについては、表に[製品種別] 列を加えました。製品種別ごとに気になった点を下記に記述します。まとめてみると、システムの設計に起因する脆弱性が多い印象があります。

  • IPカメラ
    • 認証なくカメラの映像を視聴できてしまう(特定の URL にアクセスするだけ)
    • 認証回避の脆弱性
  • ルータ
  • テレビ
    • 再起動を繰り返す状態に陥る
    • テレビに接続したストレージに保存されたデータを外部から取得できてしまう
  • ネットワーク機器
  • コーヒーメーカー
    • 脆弱性云々ではなく、100 を超えるはてぶ数
  • 無線LANチップセット
  • プリンタ
    • SNMP コミュニティ文字列がハードコーディングされている
  • カード式ロック
    • 2012 年 8 月に BlackHat USA で公開された手法が実際に悪用された
スマートデバイススマートフォンタブレット

スマートデバイス上で動作する OS 等の脆弱性のうち、気になった脆弱性を下表にまとめました。これらの脆弱性の影響範囲は、OS そのものや特定の製造メーカのデバイスのみであったりと影響範囲が異なるため、[影響範囲] 列を加えました。

OS 影響範囲 CVE番号 関連情報
Android HTC製Androidバイス 2月 CVE-2011-4872 JVNVU
HTC製Androidバイス 4月 CVE-2012-2217 VSR
ZTE製Androidバイス 5月 CVE-2012-2949 pastebin
Android SQLiteエンジン 5月 CVE-2011-3901 IBM
Android init 6月 CVE番号なし ブログ「8796.jp管理日誌」
Samsung製およびHTC製Androidバイス 8月 CVE-2012-2980 JVNVU
SamsungAndroidバイス 9月 CVE番号なし SLASHGEAR
NTTDocomo,KDDI,Softbank販売Androidバイス 11月 CVE番号なし JVN,FFRI
Exynos 4210, 4412搭載Androidバイス 12月 CVE-2012-6422 TheHackerNews
iOS Safari on iOS 5.1 5月 CVE-2012-0674 MajorSecurity
Safari on iOS 5.1.1 5月 CVE番号なし exploit-db
Telephony on iOS 6未満 8月 CVE-2012-3744 pod2g's iOS blog
WindowsPhone Windows Phone 7 9月 CVE-2012-2993 JVNVU

それぞれの脆弱性で気になった点を下記に記述します。

スマートデバイス向けアプリ

スマートデバイス向けアプリの脆弱性のうち、JVN や AppSec 以外で報告された脆弱性を下表にまとめました。2012 年は JVN や AppSec にて Android アプリの脆弱性が公表されたので、すべてまとめるのは厳しい(x

まとめてみると、スマートデバイス向けアプリの脆弱性には CVE 番号が割り当てられていないことが多いです。

OS アプリ名 CVE番号 関連情報
Android K-9 Mail 2月 CVE番号なし TrustGo
Facebook Android SDK 4月 CVE番号なし Parse blog
spモードメール 4月 CVE-2012-1244 JVN
Nessus app for android 7月 CVE番号なし Full Disclosure
iOS iOS向けFacebookアプリ 4月 CVE番号なし garethwright.com
TreasonSMS 4月 CVE番号なし threadpost
iOS向けFacebookアプリ 8月 CVE番号なし ブログ「My IT projects」
GoodReader 8月 CVE-2012-2648 JVN
iOS向けDropboxアプリ、iOS向けGoogle Driveアプリ 10月 CVE番号なし IBM
Facebook Cameraアプリ 12月 CVE番号なし TechCrunch

Android アプリの脆弱性については、下記のようなものがありました。JVN で公開された脆弱性については JSSEC の資料で解説されています。WebView に関する脆弱性については、Androidセキュリティ勉強会の @goroh_kun さんの資料CodeZine 連載記事がとても参考になります。

  • 機密性の高い情報の取扱い不備
    • ログ
    • 暗黙的 Intent
    • SD カード
  • アクセス制限の不備
    • Activity
    • Content Provider
  • SSL サーバ証明書の検証不備
  • WebView に関する脆弱性

iOS アプリに関しては、上表のもの以外には NSLog の話題が印象に残っています。

Webアプリケーション

2012年の Web アプリケーションに関する気になった脆弱性を下表にまとめました。Web アプリの脆弱性には CVE 番号が割り当てられないため、[CVE 番号] 列を削除しました。

Web アプリ 脆弱性の悪用 関連情報
4月 Hotmail threatpost,TheHackerNews
5月 Yahoo! Mail - TrendLabs
8月 Amazon Ars Technica,WIRED
11月 Skype ITmedia,Reddit
12月 Tumbler ITmedia,twitterセキュリティネタまとめ

それぞれの脆弱性で気になった点を下記に記述します。

  • Hotmail
    • パスワードリセット機能における脆弱性
  • Yahoo! Mail
    • DOM based Cross Site Scripting(XSS)
  • Amazon
    • パスワード再発行等の手続きにおける問題
    • Mat Honan 氏の iCloud 乗っ取り事件
  • Skype
    • パスワードリセット機能における脆弱性
  • Tumbler

終わりに

気になった点のコメントを添えてみたら、大分時間がかかってしまいました。だけど、2011年の脆弱性まとめ記事よりはよいものになったかなぁ。

それでは、2013 年もよろしくお願いします:)